情報を伝えるために音を使うことは人間にしかできないことではありません。また、音の利用のしかたは動物によって千差万別です。しかし、伝わる情報量を比較すると、人間に匹敵する動物は他にありません。なぜ人間は声に豊富な情報をのせることができるのでしょうか?
音声の帯域は他の動物と比較して突出して広いというわけではありません。聴取できる音は約20Hzから20kHzまで、発声できる声の帯域は更に狭いです。犬や猫はより高い音まで聞こえるということはよく知られています。また、声の強さについても同じことがいえます。セミの鳴き声くらいの音量で話そうとするとけっこうがんばらなくてはなりません。
人間の音声と動物の鳴き声の根本的な違いは、様々なバリエーションを付加してそれを聞き分ける能力にあります。具体的に、我々は声帯の振動周波数をコントロールしたり、口の形を変えたり、歯・舌・唇といったものを巧みに操り、「言語」という人間特有の機能を駆使しています。
最近、奇妙な実験をしてみました。カラスのものまねをしながら日常生活の会話をするというものです。 「おはよう」を「カークー」、うなずくときは声を下げながら「クー」といった感じです。いうまでもなく、少しでも難しい内容(例えば、「きょう、きのうより寒いね」)を伝えようとすると会話が破綻してしまいます(聞く相手があきれてしまいます)。
進化の過程において、言語の出現は人間の誕生そのものを象徴するものです。人間が木から降りて2足で歩き始めたとき、垂直な姿勢によって食道と呼吸器官が別れ、呼吸器官の一部をコミュニケーションの道具として使えるようになった、という説があります。それと同時に、脳の発達により言語が構造化・複雑化したわけです。
ことばというものは不思議です。ところで、きょうのカラスの鳴き声がちょっと変です。昨日より3度五分暑いとでもいっているのでしょうか。