ニュースや音楽など、好きなコンテンツを好きなときに聞ける時代がやってきました。テレビやラジオなんて古いメディアの存在感は薄くなっていく一方です。ところが、どういうわけか、音楽レコードが最近人気商品になり、アメリカでは35年ぶりにCDの売上を上回ったことが話題になりました。
趣味の世界ではかつての不便さや欠点が魅力として映ることがあるようです。機械式時計、フィルム式カメラやカセットテープなどが復活してきたことがその象徴です。そして私の場合は「短波ラジオ」でした。
多少の躊躇の末、安い短波ラジオを手に入れました。短波ラジオは私の思い出の中では知らない国の放送を手軽に聞かせてくれる「魔法の箱」でした。雑音だらけのときも、それはそれで雰囲気や味わいの一部でした。
魔法の箱を現代の目で眺めてみるとまず驚くのは値札です。普通の定食の2回分くらいで買えてしまいます。「食」は無駄な趣味と比較してはならぬと言われればそれまでですが、集積回路、液晶ディスプレイやデジタルチューニングといった技術の結集が生姜焼き同然となると、エンジニアとして複雑な気持ちになります。
魔法の箱から流れてきたのはやはりあの懐かしい雑音だらけの音でした。時間とともに変動したり、ときには聞き取れないほど雑音に埋もれたりして、とても心地よい音とは言えないですが、しばらくは音楽のように聞き入っていました。
しかし、しばらく経つと、かつてのわくわく感が消え去り、ネット配信の方がずっと便利だということを当たり前のように実感しました。
魔法の箱はいま、防災グッズとして家のすみっこに眠っています。
(桜)