「伝統文化の中での音の役割」

私たちは日頃から様々な「音」に囲まれて暮らしています。その殆どは本当は聞きたくない「雑音」ではないでしょうか?今日はそうした「雑音」のない世界をご紹介します。

日本の伝統文化の一つに茶道があります。私も詳しいことは良く知りませんが、日常を離れた茶道の世界には「音」についてもそれなりの約束事があるそうです。

お茶の席では、実際にお茶をいただくまでにいくつかのステップを踏みますが、順に主だったところをかいつまんでみましょう。

まずは、お茶席に入ります。にじり口という、なんとも窮屈な所から、頭を低くして、1人ずつ入ります。そして最後の人は自分が入ると、にじり口の戸をトンと軽く音をたてて閉めます。にじり口の戸をトンと閉めることにより、襖1枚隔てた場所で待機している亭主はその日にお招きしたお客様が席入りされたことを知ります。また、お客様にとっては、頭を低くして入ってきたことと合わせて、「トン」という戸を閉める音を聞くことによって日常の様々なことから切り離され、気持ちをお茶席モードに切り替える合図になるそうです。

正式な席では、お釜や床(とこ。ゆかではありません)などを一通り拝見した後、お茶をいただく前に簡単なお食事(懐石)をいただくことがありますが、この時使ったお箸の口をつけた部分をお膳の縁にかけて置きます。そして全員が食べ終えると、皆でそろってお箸をお膳の中へ落とし込みます。襖1枚隔ててこの音を聞いた亭主は、お客様がお食事を終えられたことを知り、お茶をお出しする準備に取り掛かります。(お箸を最後に落とすのには、お膳の中をいたずらに汚さないという気遣いの表れでもあるそうです。)

いよいよお茶をいただきます。この時になってやっと亭主が同席し、お手前を始めます。お茶をいただく時には基本的に音をたてずにいただきますが、最後の1滴をいただく時にだけ、スーっと音をたてていただきます。これを「吸い切り」といい、亭主に対して「私は今、お茶をおいしくいただきました」という合図を送ることになります。この合図を受けた亭主は次のお客様へお茶をお出しする(最後のお客様ならば、使った道具を納める)タイミングをとります。

日常生活で音による合図というと、大きな音を想像しがちですが、日本の良き伝統文化であるお茶の世界では、このようなごく小さな音が合図として立派に役目を果たしているのです。言葉だけに頼りすぎず、無言の所作を通じてお互いに意思の疎通を図る、日本流コミュニケーション術のなせる業と言えるかもしれません。

みんなで賑やかにお酒を飲むのは楽しくて良いことですが、時には日常の喧騒から離れて静かに過ごすのも良いかもしれませんね。(喧騒の源はお前だろっ!などという突っ込みはなしにして下さいね。)

水琴窟の音(44秒)

(裕)