『人がいないのに足音が聞こえたり、
いろんなケモノがでてくるかもしれないから気をつけてね。』
ロープ一本でどこでも降りていくといわれるその先輩は、どうやって気をつけるのかまでは教えてくれず、深夜の富士山麓の山の中に、地震探査の観測のために懐中電灯とラジオ、テープレコーダと受振器を残してさっていった。
地震探査は、ダイナマイトなどで人工的に発生させた振動の到達時間を観測して地層構造を調査するもので、人々が寝静まった丑三つ時に行われる。
振動は、受振器で電気信号に変換されて録音される。確か当時、発破時刻からの到達時間を計るために、ラジオ放送と一緒に録音していたように思う。
受振器は、かなり細かな振動まで拾うので、モニタしていると立ち去る先輩の足音などもピコピコと聞こえてしまう。確かに、何者かの足音やよからぬものの気配なども聞こえてしまいそうだった。
深夜の森の中は、以外とにぎやかで、風に揺れる木のざわめく音や、なぞの動物の鳴き声が聞こえたりして、先輩の吹き込みもあって、あまり落ち着いていられない。何かの時に役立つ手ごろな木の枝がないかとか、懐中電灯は火と思ってもらえるのかしらとか、バカなことをいろいろ考えて待つうちに、観測時間となった。
テープデッキを録音状態にして、何分か待っただろうか、『ビロビロビロビロ~』と予想よりも大きな振幅で、何キロか先で起こった最初の振動が、音となって聞こえた。間隔をあけて何回か繰り返して伝わるの振動を聞くと地層構造を音で感じられるような気がした。
(和)