「体で感じた音」

10年近く前の冬に、沖縄の久米島にダイビングに行った時の話です。

その日のポイントは、トンバラでした。トンバラは、久米島の南にある海面に突き出た巨大な岩でその周辺では大物の生物に出会えるチャンスが多いことで知られているダイビングポイントです。

機材をセットして、ガイドの説明を受けて、バックロールでエントリ。『ザンッ』という海に落ちたときの衝撃の音、海面に向かう泡の音が聞こえて、少しの静寂があって、自分の呼吸音が聞こえてくる。すぐにガイドロープにつかまって潜行します。

潜ってからしばらくすると、全身に振動を感じて動きを止めました。何回かの繰り返しの後に、ザトウクジラの声だと気づきました。ザトウクジラは、数十Hzの低い周波数の声(下図)も発するということなので耳で聞いて気が付くよりも先に、体で振動を強く感じていたようです。姿は見えずどの方向から、どの位の距離からの声なのかまるで分かりませんでしたが、全身に声を浴びたような感じがしていました。海の中の少し暗く神妙な感じも手伝って何かとても感動したことを覚えています。


ザトウクジラの声のスペクトログラム
(※VoiceBaseⅡにより信号処理を行った後、SUGI SpeechAnalyzerにより表示)

(和)