伝統芸能と最新技術

今春、五代目となる歌舞伎座が3年ぶりに再オープンし、新生歌舞伎座として話題になっていることは、歌舞伎ファンならずともご存知の方も多いと思います。つい先日もTVで新生歌舞伎座を紹介する番組が放映されていました。もう一昔以上前の話になりますが、海外のお客様を連れて度々訪れた場所で、当時を懐かしく思い出しました。

ところで、「歌舞伎」という芸能名の由来をご存知でしょうか。「傾く(かぶく)」という動詞からきていると言われていて、「かぶ」は「頭」の古称、すなわち「頭を傾ける」が本来の意味で、「頭を傾けるような行動」というところから「並外れている」、「常軌を逸している」という状態を「かぶく」と言ったのだそうです。そして、世間の秩序に反して行動する人々のことを「かぶき者」とよび、当時を象徴する最先端の「かぶき者」の扮装を舞台上で真似たことから「かぶき」となったそうです。

歌舞伎は、その歴史と伝統を受け継いで約400年もの間、今日まで継承されてきたわけですが、最近ではその伝統を数々の最新技術が裏側で支えているようです。従来から歌舞伎座は音環境にすぐれ、せりふや演奏の音がよく聴こえると評判で、実際、3階席や4階席でも、音が上から降ってくるように聴こえるようだと言われていました。マイクに頼ることなく、生の音が客席全体に心地よく響くのは、もちろん俳優さん達の修練の賜物なのでしょうが、例えば、前の歌舞伎座では平面的だった天井は、今回三次元の反射板をつけて立体的になり、「すべての場所でより均一に、音が反射するようになった」そうです。せりふに留まらず、所作音楽やツケ(木を打ち付けて出す効果音)など、舞台上のすべての音が館内に均等に響くよう、音響シミュレーションを繰り返して微妙な曲面の調整を続けた結果、見た目には変化を感じさせず、前の歌舞伎座と同じ残響時間を確保することに成功したとのことです。担当した人はかなりのプレッシャーの中でこれら作業を続けてきたことを番組で語っていました。

そして話題の一つは巨大な回り舞台。約4・4メートルだった奈落が今回5階建てのビルの高さと同じく約16・4メートルまで深くなり、容積として日本最大だそうです。この回り舞台も今ではオペラやミュージカルでも普通に使われていますが、江戸時代の日本が起源とされています。

「奈落の底」や「檜舞台」など、私たちが日常使っている言葉の中には、歌舞伎から出てきた言葉が多く存在します。この歴史と伝統ある日本の芸能・文化を現代の最新技術をうまく融合させながら更なる400年に向けて、次の世代に引き継いでいくのが我々の務めなのではないかと思います。

(摸)