アザーン

最近、アラブの春と呼ばれる民主化運動により、中近東や北アフリカのイスラム教を国教とする国々が世界の注目を集めているのは、皆さんもよくご存知のことと思います。

そうした国々では、1日5回礼拝時間になると、モスクやそのミナレット(尖塔)から、ムアッジンと呼ばれる役務者が、近隣の信徒に向けて礼拝への呼びかけを行います。そこに住む人々の時計代わりにもなっているその呼びかけのことをアザーンと言います。ユダヤ教のラッパ、キリスト教の鐘と同様の役割と言われています。さて、このアザーンですが、呼び掛けの言葉は基本的に同じなのですが、節の付け方、ムアッジンの声質や声出しのペース、地域性などによって、単調な唸り声のようなものから、格調高い哀愁に満ちたものまで実に個性豊かで様々です。

一般的に信仰心が薄いと言われる日本人の中にあって、とりわけ宗教には無関心と自負している筆者にとって、最初は奇異なものとしか聞こえなかったアザーンが、その環境に長く暮らし、聞き慣れてくるにつれ、次第に心休まる平穏の調べのように聞こえてくるようになったのは実に不思議な気がします。特に日没前後、夕焼けを遠くに見ながら、その日最後のアザーンを聞きつつ、たかだか3~4分という短い時間なのですが、何度もホッとした気分に浸ったものです。

古来ムアッジンは、ミナレットのバルコニーから叫んでいたわけですが、最近ではマイクを使ってスピーカーで拡声するのが普通となっています。情緒がなくなったという意見もあるようですが、こういった宗教的な儀式も近代化の波には抗えないということでしょうか。その代わりと言ってはなんですが、文頭のアラブの春を巻き起こしたインターネットの恩恵により、今やアザーンやコーランまで、YouTubeなどを通して世界中誰でも、どこでも聞ける時代になっています。

ここ数年、イスラムというだけで怖いイメージが出来上がってしまっているようなところがありますが、アザーンやコーラン朗読の調べ、またアラビア語書道などは、文化・芸術としても非常に価値が高いものとされています。興味のある方は、現地へ赴くもよし、インターネットで調べるもよし、是非一度確かめてみてください。

(摸)