耳障り・耳触り

最近は耳に慣れてきましたが、「ヤバイ」という言葉。
こちらは「危ない。不都合な状況」ではなく、主に若者の中で「格好いい。クールである」という意味で使われているようです。
「ヤバイ」の語源は、弓道における「矢場」から来ているという説もあります。
(矢が放たれるので危ないというところから)

同様に「耳ざわりの良い音楽」という、若干違和感のある使い方も目にします。
確かに「耳障り」の漢字を当てれば、ネガティブな印象です。
しかし「耳触り」という、「肌触り」などと近い感覚を示した使い方も、昔からあったようです。

「大辞泉 第2版・下」(平成24年・小学館)
・みみざわり【耳触り】 聞いたときの感じ・印象。
・みみざわり【耳障り】 聞いて気にさわったり不快に感じたりすること。また、そのさま。

例えば、宮本百合子「貧しき人々の群」(大正5年)でも、以下のように使われています。

「俺らが大事の両親に辛い思いをさせ涙をこぼさせるのは、あのいつでもその耳触りの好い声を出して,スベスベした着物を着て,多勢の者にチヤホヤ云われている者共ではないか?」

寧ろ、「耳障り」よりも「耳触り」のほうが語源が古い可能性もあるようです。
「今昔物語」巻七の第三
「嫌ムト云エドモ般若ノ名ヲ耳触リタル功徳カクノ如シ」

言葉は生き物。どんどん変わるものなので、「誤用だ!」と憤慨するよりも、その変化を楽しみたいものです。

(一)