「遅れる声」

「テレビの中継で声が遅れて聞こえるのはなぜか」という質問をよく目にします。実際、そのような現象に思い当たる人も多いのではないでしょうか。しかしこれは、質問する側が現象を混同していることが多いようです。

「声が遅れて聞こえる現象」でまず思い浮かべるのは、腹話術のいっこく堂さんの「あれ…声が…遅れて…聞こえるよ」というネタです。口が先に動いて、声は後から聞こえるという妙技です。それらしく見え、そのようなテレビ中継を見たことがあるように思えますが、実際には、そのように映像と音声がずれて放送されることはありません。衛星中継の映像と音は、"一緒に"遅れているのです。

このとき「遅れている」ような違和感を感じるのは、中継先とテレビ局のスタジオ間で行われる「会話のタイミング」です。これを「声だけが遅れて聞こえる」と勘違いしているケースが多いと思われます。

放送はされませんが、通信の過程では、実は、ずれている場合があります。映像は通信衛星、音声は地上回線と、別々に送ることがあるためです。ただしこの場合、「声」ではなく「映像」のほうが遅れます。また最近は、デジタル信号処理の処理時間に差が出ることもあります。

「じゃあ、やっぱりずれているんじゃないか!」と言いたくなりますが、しかし、このままでは放送されません。放送局側で、リップシンクという映像と音の同期処理を行って、ずれを補正してから放送しています。

人間は、音進み45ミリ秒、音遅れ125ミリ秒で、音の時間的ずれを感じはじめ、その許容限界は、音進み約90ミリ秒、音遅れ185ミリ秒だそうです。音が先に出るよりも、遅れるほうが許容範囲が大きいのですね。身近な自然現象に、行動よりも音が先に出るということがないためでしょうか。音だけがすると、不安に感じることが多いかもしれませんね。

(佐)