「ウェルニッケ失語の言語リハビリ~聞き取り訓練」

失語症とは脳出血や脳梗塞、頭部外傷などによる大脳の損傷によって、言語中枢が障害を受けて起こる言葉の障害です。失語症になると言葉の理解(聞くこと・読むこと)、表出(話すこと・書くこと)の機能や能力が障害されます。失語症の症例を大別するとブローカ失語とウェルニッケ失語に分けられます。ブローカ失語は聞き取りができるのですが、運動系の障害で流暢にしゃべれません。ウェルニッケ失語は音素の弁別ができない障害で正しくことばの聞き取りができません。流暢にしゃべることができるのですが、しゃべる時にことばの選択を間違えて、錯語します。精神障害ではないかと間違えられる症状になります。

ウェルニッケ失語の訓練に失語症リハビリ訓練法の一つであるJIST法(日本全体構造臨床言語研究会)では他の訓練手段とリアルタイムフィルターとを併用して、音素弁別ができるように“話しことば”の聞き取り訓練を行って治療効果を高めてます。

リアルタイムフィルターには、実時間聞き取り訓練のために敢えて日本語が持っている会話音声周波数領域300Hz~3000Hzの間をカットしたフィルター(不連続フィルター)を使用します。また日本語の話しことばのリズム聞き取り訓練のために300Hz以下の低周波フィルターを使用します。患者さんはテキスト音声と同様に自分が復唱した音声をリアルタイムフィルターに通して聞きながらフィードバック訓練します。

なぜ、リアルタイムフィルターが聞き取り訓練の治療効果を高めるかですが、不連続フィルター(音声の低周波帯域と高周波帯域とを同時に不連続で提示)の使用は、脳に音声を記号化して聞き取る、つまり音素として構造化(知覚)する働きが促進されることが、様々な実験で証明されてます。低周波フィルターは子音の聞き取りに基本的な子音から母音へのわたりが多く含まれる低周波領域を強調させ子音の聞き取りを促進させることができるからです。

参考にウェルニッケ失語の訓練に使用されている話しことばの聞き取り訓練音声を添付します。1、2、3の順番で、聞き取りやすくなっております。上手く聞き取れるか試して見てください。

聞き取り訓練音声:

1.低周波フィルター音声(9秒)

2.不連続フィルター音声(9秒)

3.フィルター無し音声(9秒)

リアルタイムフィルターとは:
任意な入力音声を実時間で周波数領域をカットして音声を出力することができます。AD変換器で入力アナログ音声信号をデジタル信号化してからDSP(デジタルシグナルプロセッサー)でデジタルフィルター演算処理します。DA変換器で演算処理されたデジタル信号をアナログ音声信号に戻して出力されます。

(河)